Bloom ─ブルーム─
「うるせぇな、本当しつこいから」

「だって好きなんだもん。いーじゃん。ね?一緒に帰ろ」

夏休み明け、下校時刻になると、毎日こんなやり取りが直人と杏奈の間で行われてる。

けど、全否定だった直人が、最近は3回に1回「しょうがねぇな」って杏奈に負けるようになってきたんだ。

ちょっとした進歩?

「ったく。しょうがねぇな」

ほら。今日も杏奈の勝ちだ。

私と目が合った杏奈は、勝ち誇ったようにドヤ顔を見せてきた。

友里亜は直人達に背を向けて、手鏡で髪を整えてる。

山本先輩に会う準備らしい。

どうせ自転車に乗って風に吹かれたら髪なんて乱れまくるのにね。

「大丈夫。可愛いから」

「え?あ……も、もう、里花ってば」

ふわっと笑う友里亜は今日もやっぱり可愛い。

もし花に例えるなら、やっぱり可憐な百合かな。

今朝、庭で向日葵が咲いていることに気づいた。

母曰く、私の名前の由来らしい。母の好きな場所“ひまわりの里”から取ったんだって。

けど、一途に太陽を見つめるその姿から、私は目をそらして家を出た。

一途さなんていらない。

小さくてもいいから、少しでもいいから、可憐さを持つ花になりたかった。

もう、今さらだけど。

夏休み中に、肩下まで伸びた髪はバッサリ切り落とした。

ありきたりだけど、失恋と髪を切るのはセットでしょ?

私の髪は、大樹先輩への想いと一緒に、美容室へ捨ててきたんだ。

みんなには少年みたいだって笑われたけど、巻く必要のなくなった頭は妙に軽くて清々しくて、楽チンで。

少しだけ空が近く感じた。

< 213 / 315 >

この作品をシェア

pagetop