Bloom ─ブルーム─
「じゃあ、退学しようとか、考えない?もしかしてすぐ東京に行くとか……安田先輩に連れてかれたりとか」

「大丈夫」

先輩は「俺はそこまで無謀なバカじゃないから」ってニッと笑った。

良かった……。

ホッと胸を撫で下ろすと

「それに、もう少し、見てたい人もできたし」

って先輩が呟いた。

「赤ちゃんですか?そうですよね。今退学して遠くに行っちゃったら抱っこできないし。

一緒に住むからこそ愛情とかもいっぱい沸くはずだし、これから成長してくの見てたいですよね」

良かった。

妹とお母さんと家族になっていく先輩の未来が、明るく照らされますように。

そっと見上げると、先輩はなぜか苦笑いしていた。

あ。

もしかしたら……見てたい人って、赤ちゃんじゃなくて、ナナさんのことだったのかも。

それは、私の口からは聞けないけど。

喜んだ気持ちが途端にシュンと沈む。



でも。

それでも。

またこうして、目の前で笑う先輩に会える時がくるなんて思いもしてなかったのに。

こんな風に話が出来てる今。

これって、すごいことじゃない?

その心にナナさんだけがいるのだとしても。

ただそこにいて、笑っててくれるだけでいいや。

顔を見るのが辛いとか、胸が痛いとか思ってた自分がとれほど高望みをしてたのか、思い知った。

いつの間にか縮まった距離に有頂天になって、欲張り過ぎてたんだ、私。
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