Bloom ─ブルーム─
「先輩」

「ん?」

「ごめんね」

「え……?」

見上げれば優しく見下ろしてくれる先輩。

でもこれを勘違いしちゃ、ダメなんだ。

これは誰にでも返す、ただの思いやりでしかないんだから。

「私、ライブの日、変なこと言っちゃったから。全部忘れちゃって下さい。あ、もうすっかり忘れてました?それならそれで、本当に、全部なかったことに……」

ならないかな?

そーっと先輩の顔を覗き見れば、ひどく思い詰めた風な表情に変わってる。

やっぱりキレイサッパリ忘れてはくれなかったんだ。

こんな顔をさせてるのも、私が余計な事を口走ったせいなんだ。

そしたら、今でもまだ先輩を想う気持ちが残ってるなんて言ったら、どれほど困らせるだろう。

もしかしたら健さんを傷つけたくなくて遠慮した時のように、今度は私を傷つけない為にナナさんとの事を悩むかもしれない。

それならせめて、今だけでも平気なふりしなきゃ。

それが、今の私にできる、精一杯の愛情表現。

「私、熱しやすくて冷めやすいタイプで、えっと、夏休み中に気持ちはすっかり変化しちゃってて、それであの、揉み上げないのとかも微妙だし、えっとあのそれでだから」

何かいい嘘がないだろうか?と考えをめぐらす。

「ほら、髪の毛と一緒に、あの時の気持ちもどっか行っちゃいました。だから本当に、全然気にしないで下さい」

短くなった髪を見せて、笑ってみる。

うまくいった?

でも先輩は私の心を見透かすように見つめ返してくるだけ。

気づかれるのが怖くて、また目をそらした。
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