Bloom ─ブルーム─
「この曲のタイトルも、ブルームなんだ。これは、里花の“花”からもらった。

昨日の夜作りながら、これを里花に見せることはないんだろうなって……思ってたんだけど。

諦めなくて良かった」

私は込み上げる感情で熱くなる目頭をノートで隠した。

いつか、彼が手の届かないところまで行ってしまったとしても。

この歌があればいつだって私は彼のそばに行けるんだ。

この瞬間確かに私だけを見てくれてたっていう証拠が、ここにあるんだもん。

この歌を聴けばきっと、目を閉じると見えるはず。

隣で笑う彼が。

「これからもずっと、里花に届くように歌うから」

泣くなよ、と頭を撫でる先輩の言葉があんまり早いから

「まだ泣いてませんっ」

泣きそびれた。

そしたら、あれ?って手を頭に乗せたまま私の顔を覗き込み「なんだ。やっと健に勝てたと思ったのに」なんてむくれる先輩。

あれ?健さんだけに見せた鼻水まみれの泣き顔に、妬いてる?

「見ない方がいいですよ。あれはひどいって健さんに呆れられたもん」

「どんなんでもいいよ。全部受け止めるから、もう隠すなよ」

ダメだ。

そんな甘い言葉なんて言われたことないから、どう返していいのかわかんなくなる。

フツー、やっぱり可愛い女の子っていうのは、ここで頬を赤らめて、甘い言葉に負けないくらい綺麗な涙を流したりするものなんだろうか。

なのに。

恋愛初心者の私は、涙なんて簡単に引っ込んで。

「……はい」

ほら。

出てくるのは結局、こんな気のきかない返事くらい。

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