Bloom ─ブルーム─
笑い合う私達の向こうで、パステルカラーだった虹がゆっくりと淡くなり、姿を消していく。

──諸行無常。

『儚いからこそ美しい』

って、さっきの授業で先生がそんなことを言ってたっけ。

難しいことは私にはよくわからないけど。

目を凝らさないとわからないほどになった時、

「今日デートしよっか」

ポケットの中で繋がる手をギュッと握って彼が言った。

「ラーメン屋行かないの?」

「うん。今日は2人でいたい気分」

「健さん追いかけて来るかもよ?」

「逃げる!」

「ぷぷっ負けそう」

笑う私の隣で、「負けないよ」って自信満々に答える彼は、スーっと風を吸い込むと静かに歌い出す。

「ここの季節が変わるときを、一緒に見よう」

私の大好きな歌。

交わした約束は、彼の作ったメロディーに乗って軽やかに踊り出す。

でもこの約束に終わりはないんだって。

“枯れ葉の絨毯も、雪解けも、桜散るそのあとも。繰り返し繰り返し、一緒に見よう”

そんな歌詞で結ばれたこの歌─ブルーム─。

ライブの時のような激しさはないけれど、間近で囁かれる歌声は、また私の恋心をくすぐる。



お腹の底に響く太い声。

少しも外さない音感。

高音で伸びるキレイな裏声。

強くて勇ましくて、でもちょっとだけ頼りなさげで儚そうで、優しい、彼の奏でるメロディー。



私の大好きな人の、大好きな声。

私の恋したバンドマン。



左手首には、ミサンガ。

『里花から笑顔が消えないように』

『大樹の夢が叶うように』

新たな私達の願いは、あの飛行機雲に乗ってきっと、真っ直ぐまっすぐ。



青空の彼方へ──……




















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