Bloom ─ブルーム─
7月初旬。

照りつける太陽の下で、出会ったばかりのボーカル兼お化けに、こんな仕打ちを受けようとは、誰が思っただろう?

でも。

腹立たしいけど、後ろで「すげーすげー!」と興奮しながら笑う長谷川大樹の声を聞いていたら、まぁいいか、なんて思ってしまう。

また、柔軟剤の香りがふわっと鼻先をかすめた。

ダウニーかな。

なんとか先頭を保ちながら、やっと下り坂に差し掛かった時、心の中でガッツポーズ!

そして、サドルに腰を下ろすと、ペダルから足を離した。

両足をパッと開いて下り始めた自転車に身を任せる。

長い下り坂をブレーキかけずに走らせる自転車の、気持ちいい事ったらない。

このボロボロ自転車の扱いにも多少慣れたし、じんわり滲んだ汗に風があたって、涼しい。

「サイコー!!」

こぎ続けた疲れを吹き飛ばすように私は叫んだ。

「な?俺の相棒いーだろ?」

いや、アナタのチャリはひどいよ?

けど一緒に風をきって走る帰り道は、それまでの満員バスよりずっといいのは確かだった。

「まぁ、ね」

私達の横を通り抜けてく学生専用と書かれた学生バスは、相変わらずの満員っぷりで、毎日あの中にいたんだ思うと吐き気すら覚える。

──あ、直人。

そのバスの中に、沈んだ顔して外を見つめる直人の姿を見つけた。
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