Bloom ─ブルーム─
けど、自転車を押しながら歩き出した長谷川大樹。

「乗らないんですか?」

「んー、じゃ、交代制にする?電信柱まで」

「かばん持ちじゃないんだから」

「ぶははっ。でも、これ、もう2ケツ無理かなーと思って」

「あー……」

確かに、今まで以上に右に傾いたハンドル。

これで2人、バランス取りながら乗るのは難しいかも。

「すいませんっ。私のせいで」

「いや、ハンドルは元々だし、里花ちゃんのせいじゃないよ?」

「でも……」

それに、よく見れば、長谷川大樹が足をかけていたのは、後輪の横にある、この少しすり減った頼りないネジだけだったらしい。

これじゃあ、もし後ろに乗ってたのが私なら、安全運転でも危うかったかも。

もしかして。

だから私にこがせたの?

私が振り落とされて怪我しないように?

何も言わずに?

それなのに私は気にせず超スピード出しちゃって。

「この先に、俺らのたまり場があるから、後、10分くらい。歩ける?」

「──はい」

「あれ?何?大人しくなっちゃった?もしかして珍しく気にしてる?」

「珍しくって、何ですかっ!」

珍しいと言えるほど知らないくせに。

でも自転車押しながら、また人の顔を簡単に覗き込むんだもん。

女の子扱いしてないかと思ったら本当は優しさの裏返しで、一言多いと思ったら落ち込んだ私を元気にさせる為だったりして。

この人の隣にいると、どんな顔してたらいいのかわかんなくなる。


< 54 / 315 >

この作品をシェア

pagetop