Bloom ─ブルーム─
止められてる自転車の隣に自分の相棒も止めると、手招きして私をラーメン屋の入口に誘う彼。

磨りガラスの引き戸をガラガラと開け、暖簾の下をくぐると

「大ちゃん、おかえりー」

私達に気づいたその店の女将さんらしき人が、威勢のいい声をあげた。

体格のいい、強そうだけど優しそうな人。歳は私のお母さんと同じくらいかな。

「あら、ナンパしてきたかい?大ちゃんも勇ちゃんも急に色気づいちゃって」

「何言ってんだよ。俺は由紀ちゃん一筋だって。で、由紀ちゃんにお願いがあるんだけど。見て?こっちも穴開いてるんだ。後で直してよ」

「今度はこっちかい?しょうがないね。大事なダーリンの頼みなら断れないけど」

おばちゃんはガハハハハと豪快に笑う。

そして

「どっかで寝転がってる誰かさんとは大違いで、大ちゃんは頭の毛はあるしイケメンだからねぇ。働き者だしねぇ?」

奥の部屋に向かってそう話す、“由紀ちゃん”と呼ばれた人。

「あー?なんか言ったかぁ?」

奥からのんきなおじさんぽい人の声が聞こえた。

「本当にあの人は、暇になったらすぐ私にだけ店任せて休むんだから」

ため息つきながら、しょうがないねぇって笑うこの人が、さっき長谷川大樹が言ってた“由紀ちゃん”?

「健(ケン)の母ちゃんの、由紀ちゃんだよ」

「ケン?」

「あー、ギターのヤツ。まぁ、座って」

じゃあここ、ギターの人の家なのかな?

私は言われるがままに店のカウンターに腰かけた。

奥に上がり台があって、その先に階段が見える。

上の方から賑やかな笑い声が聞こえてた。

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