Bloom ─ブルーム─
「裁縫道具が電話の下の引き出しに入ってるのわかる?」

厨房からの由紀ちゃんの威勢のいい声が、私達の沈黙を破った。

「うん。これでしょ?」

長谷川大樹の隣に電話とレジがあって、その下の引き出しから紺色のケースを取り出した彼は、由紀ちゃんに見せる。

「そうそう。ちょっとお姉ちゃん、私の代わりに縫ってやって?」

え?お姉ちゃんって、私の事?

私が縫うの?

「は……はいぃ」

一応、家庭科は得意だけど。だけど!

「マジで?いいの?」

ズボンを脱がずにポケットをひっくり返して私に見せる彼。

この接近状態のまま縫うんですか?

「脱いだ方がいい?」

躊躇ってる私に気づいたのか、彼はベルトに手をかけた。

「できれば」

脱いでくれたら自分の膝で出来るし。

と、ホッとしたのも束の間、長谷川大樹は何の躊躇もなくそのままズボンを脱ごうとした。

「ちょ、ちょっと待って!パパ、パンツ!」

パンツ見えたんだけど!奥で履き替えてくるとかじゃないの?

「だって、脱いだ方がいいって言ったじゃん」

「い、いいです!もう履いたままで」

なんだよ?と口を尖らせて子どもみたいにぶつぶつ言う長谷川大樹がベルトを閉め終えるまで、私は彼から目をそらし、針に糸を通していた。

「履いたよ?」

「本当?」

「ホントホント」

恐る恐る長谷川大樹に視線を向ける。
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