Bloom ─ブルーム─
「うん。今年の初めに、親父が突然“新しいお母さんだ”とか言って連れて来たんだ。何だよ?と思ったら、腹の中に赤ん坊いてさ」

「……」

「俺、来月兄貴になるらしいんだよね。まぁ、形だけだけど」

こんなこと、全然何でもないよって口振りだけど、その平気そうな顔が逆に、見てて苦しくなった。

「って、俺は何でこんなこと里花ちゃんに話してるんだろうね?あ、そーだ、里花ちゃんって誰かに似てると思ったら花子に似てるんだ!」

「花子?」

「健の家で飼ってる柴犬。裏庭にいるよ?」

犬?しかも柴犬って!

「トイプードル?」

「どう聞き間違えたら柴犬がトイプードルになるんだよ?」

「だって、柴犬に似てるって結構ショックなんだもん」

そりゃ、一緒にいてあんまり女の子って意識させないよね?とかよく言われるし、友達としか思えないってふられた事もあるし、キレたら女捨てたみたいな事やらかしちゃうけどさ。

でも、柴犬って。

どこにでもいそうなイメージじゃん。

そういうの、男の人に言われると結構傷つくんですけど。

「そー?俺は飼うなら絶対柴犬がいいけどなぁ。つぶらな瞳が可愛くない?愛嬌あるし、俺は好きだよ?」

オレハ、スキダヨ?

その台詞、免疫のない女の子に顔を近づけて言う事を、反則技と言います。

落としたと思ったらすぐに持ち上げるこの技、どこで覚えたの?

ドクンッ。

今までにないくらいに跳ね上がった心臓を気づかれないように、私は目をそらし、ラーメンを啜った。

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