Bloom ─ブルーム─
「健の父ちゃんが拾ってきたんだ。最初めっちゃ小さかったのに、あっという間にこんなでかくなった」

「捨てられてたんですか?」

「うん。でもなんか羨ましかったよ、コイツ」

寂しそうに花子を撫でる長谷川大樹は「無理して飼われるくらいなら、捨ててくれた方が幸せな場合もあるんだよ」と、意味深な言葉を呟いていた。

私に話してるというよりは、独り言みたいに。

もしかしたら長谷川大樹は、花子を自分と重ね合わせて見てるのかな?

飼い主を無くして路頭に迷った柴犬と、お母さんを亡くして行き場を見失った自分?

「たまに思うんだよ。俺はなんでここにいるのかな、なんて」

「でも、花子はここに拾われて幸せになれたけど、みんながみんなそうとは限らないんじゃないですか?」

だって、一歩間違えたら保健所に引き取られて殺されちゃってたかもしれない。

捨てられることがいいことだなんて考えて欲しくない。

今の自分を否定して欲しくない。

「私、先輩の歌声がすごく胸に残ってるんです。力強いのにどこか頼りなさげな……って、悪い意味じゃないですよ?

最初はよくわからなかったけど、もしかしたらいろんな深い部分での感情が声になってるから胸に響いたのかも。

先輩は多分いろんなものを抱えてきて私にはわからないような悲しみとかも経験してきてるわけで、何も知らない私がどうこう言える立場ではないんだけど。

でも、今の先輩だから出せる声があって、それで全然無関係だったはずの私の心にも届くなんてすごいことだと思うんです。

きっと私だけじゃないと思う」

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