Bloom ─ブルーム─
昼休み。

トイレから教室に向かう途中。

開け放たれた窓から入り込む風が、私をひき止めた。

ぬるく柔らかいその風に乗って、彼の声が廊下まで入り込んできたんだ。

喉は彼にとって命なのに。

騒ぎすぎたのか、少し掠れてる。

気づくと、私は窓から見えるグラウンドのある一点に釘付けになっていた。

サッカーボールを追いかけ、子どもみたいに本気で走って転んで砂だらけになってるみんな。

まるで、スポーツドリンクのCM撮影でもしてるみたい。

太陽の下、輝く爽やかな汗と笑顔。

あの人達は学年性別問わず仲良くなれるんだろうか。よく見れば3年や1年も混じってる。

あの人達っていうのは、そう、バンドのメンバー。

足、速いじゃん。

あ、シュート──

決まった。

バカみたいにジャンプして叫んでる。

掠れてる声がさらに掠れる。

あ、転んだ。

笑ってる。

転んだのに。

「さっきから夢中で見てるけど、誰を見てるの?」

「え?えぇっ?」

いつからそこにいたんだろう?

突然の友里亜の声に必要以上に驚いてしまった。

「別に全っ然、長谷川大樹とか興味ないよ?なんとなく視線が向いてたってだけで、見てたわけじゃなくてっ」

「長谷川大樹先輩?」

友里亜が天然で良かった。

大丈夫、多分気づかれてない。

いや、気づかれてないも何も、別に何もないけど!

「あ、本当だ。遠くてわかんなかったけど、バンドの人達がいたんだ。山本先輩もいるかなぁ」

「うん、あれじゃない?ほら、今ボール奪った人」

「あー、そうかも。上手なんだね」
< 76 / 315 >

この作品をシェア

pagetop