〜題名の無い小説〜


リハーサルも終わり・・・

放課後での事・・・



たいきが喋りかけてきたのだ・・・


たいき「拓ちゃん・・・

    噂で聞いたんやけど、

    転向するって本間??」




そうなのだ・・・

話が急展開になったが


一か月前から、親に立ち退きの話を聞かされていて、

友達の酒田に相談で話した事があるのだ・・・

たぶん酒田がびっくりして、うっかりバラしてしまったのだろう。



俺の家は、普通のアパートよりボロい、社宅だった。

お父さんは工場で働いているので、

その会社の近くの社寮のような場所に住んでいたのだ。

だが、そこは家賃もとても安く、(1万くらい?)

部屋が二つあって、台所も別にあって、

トイレお風呂も別々だった。

早く結婚し早く俺と妹を産んだ両親は当然、お金の余裕もなく、

家賃が安い割に、結構条件がいい部屋だったので、

誰でもここに住むと決めるだろうと言わんばかりに

この社宅に住んでいたのだ。


俺の友達は一軒家や住宅、マンションに住んでいる友達がすごく多く、

密かに憧れを抱いた事もあったが、

やっぱり俺はこの社宅が大好きだった。


俺が生まれた時は港町の方に住んでいたが、自分の意思を持ち出した頃から

社宅に移ったので、記憶的には


ここへの愛着が半端じゃなかったのだ・・・


そんな社宅が潰れる事になったのだ、

そこまで必要としていない、歩道を広げる工事をする為ごときに・・・


その頃、工事現場のおっちゃんが嫌いになった年頃だった。


俺は必至に親に頼んだ事もある・・・

拓也「お父さん、俺、転向なるんちゃうん??

   うそやろ??今まで、転校生を待ちわびてた

   俺が転校生になるん??
   
   いやいや、皆ともう会われへんように

   なるやん!!

   そんなんあかんて!!絶対無理やで!!

   俺転向しやんから。」


お父さん「・・・・・」

お父さんは少し沈黙になり、少ししてから話し出したのだ。


お父さん「気持ちは分かるで・・・
   
     でも立ち退きは決定なんや。

     お父さんだって引っ越ししたないねん。

     家族皆、この家が好きや。

     せやから、お父さんもな、ここ潰れるとか

     考えられへんねや。

     でも現実は現実や。

     今年の夏にはここでなあかん。

     だから、とりあえず、皆と一緒の中学校へ

     入学して

     好きな事やり。

     皆といっぱい遊び。

     いっぱい思い出作り。

     寂しいかもしれんけどな、

     夏休みの間に違う学校に転入の手続きをするから。

     その時は言うとおりにしてくれ。」



そんな正論を並べられると、俺は何も言えず、


拓也「分かったわ。」


そういうしかなかったのだ。。。


だが俺は少し嬉しかったのだ・・・


ちょっとだけでも、

自分が皆と一緒の学校に通える・・・

もっと皆と一緒に居れる・・・

もっと思い出を作ることができる・・・


それを胸に、自分の辛い気持ちを押し殺し、

表情を笑顔に変え、明日の卒業式へと向かうのだ・・・
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