MAGIC HIGH SCHOOL ~第二章 円形闘技場~
旅立ちの準備
「何かここ、埃っぽくないですか?」
そう言い出したのは里依だった。
まぁ、確かにね。武器庫だから仕方ない。
「ここには、ありとあらゆる武器がある。好きなのを選んで良いぞ。……まぁ、選ぶのは後にして、とりあえず革袋を1つずつ用意した。受け取れ。それから」
「待って下さい! ちょっと、メモするんで」
何処から持ってきたのか、彼女の手にはペンとノートが握られていた。
「一度に多くの事言われるとパニくるからさ」
そう彼女は照れながら必死にノートに書き込んだ。そんなの、いちいち書き込まなくても、私は頭の中に入っちゃうのに。もしかして、里依、私より頭悪いの?ちらっとそう思った。
「んじゃ、行こう! 陽梁、待たせてごめんね」
「うん……」
今の事は里依には言わないでおこっと。
先生に渡された革袋の中を見ると、マッチから寝袋、保存食まで旅をする時の必需品が入っていた。まさか
「笠本さん! まさか私達に旅させるつもりなんですか?」
「当たり前だ。そうじゃなきゃそんな道具渡さない」
全くもう。やっぱ今日の笠本さんは何かおかしい。まぁ、おかしいのは前からだけど。
「2人とも聞け。皆がクイーンに誘拐されたとなれば、今回も戦いは避けられないだろう。しかし、前回のように魔法だけに頼る訳にはいかん。魔法は体力を消費するからな。そこでだ。お前達は武器を携帯しろ。ここにある武器から選べ。普通の物から魔法の物まであるぞ」
はぁ。やっぱりそんなこと考えてたんだ。
とにかく、私達は棚を覗いて選ぶ事にした。
ここで1番目を引くのは、奥に掛っている盾。見るからに恐ろしい怪物が彫られている。ギリシャ神話の怪物、メデューサだ。メデューサの目を見た者は、石になってしまう。あくまでも彫られているだけだから石にはされないけど、めちゃくちゃ怖い。アイギスだ。大神ゼウスの盾だ。ゼウスがタイタン族との戦いの時に使ったもので、その後知恵の女神アテナに贈られ、その後メデューサの顔が付けられた。
私は、更に棚を見た。武器とは思えない物が置いてある。野球帽だったりコンバースの運動靴だったり。
私はためしに野球帽をかぶってみた。すると、体が透明になった。
「透明人間になれる帽子か……」
私は帽子を取りながら言った。
「色々有り過ぎて迷っちゃう」
里依が言った。
私は、棚にあるピンを見た。直感で分かった。これは……
「剣? 里依、これ、あんた良さそうじゃない?」
「えー! 剣はやだよ。私、戦うの嫌いだし。陽梁が持ってなよ」
私はピンを手に取った。すると、それが剣に変わった。柄には宝石が7つはめ込まれている。サファイア、ルビー、エメラルド、アメジスト……綺麗……その上、重さと長さも私にピッタリ。
〈里依視点〉
私は、戸棚の隣に2つの鞘に収められた剣らしき物を見つけた。きっとサバイバルナイフかなんかだろう……なんか気になる。触ろうとした途端、手がビクッと震えた。
“怖いっ”
でも……この世界は魔法とか、とにかく何でもありなんだ。この世界で私は生きている。他のクラスみたいに平穏な日々なんて望む方がおかしい。今こそ……自分が変われるチャンス!
私は、勇気を振り絞り、2つの剣を取って、自分の革袋に入れた。
その時、片方に静電気みたいなのを感じた。
……気のせいか。
「里依、こっちはどう?」
陽梁がブローチを渡して来た。私は試しに受け取ってみた。すると、ブローチが大きくなって、一瞬で弓矢になった。矢筒には、銀色の矢が満杯だ。弓には、上品な装飾が施されている。すっごく綺麗!
「どうだ? 決めたか?」
「はい。これにします」
私は即答。だってスッゴク綺麗なんだもん。
「私はこれに」
陽梁はさっきの剣にした。
「そ、それは! お前達、どうやって!」
笠本さん、かなり動揺してる。この弓矢と剣がどうかしたの?
「その武器は、昔オリンポスの神が使った物だ。ヘカテが作り、弓矢はアルテミスに、剣はアテナに贈られた」
何それ? 固有名詞多すぎ。
「ヘカテは冥界の女神。アルテミスは、月と狩猟の女神で、弓の名手。アテナは知恵と戦術の女神」
陽梁は何でそんなにギリシャ神話に詳しいの?
「弓矢の名は、ヴェローネ。彗星という意味だ。剣の名はリアンノン。激流という意味だ」
ヴェローネとリアンノンか。けっこうかわいい名前だな。