弁護士先生と恋する事務員

 祭りの夜




「おーい、そろそろ行くよー♪」



夕方、黒地に大柄の牡丹をあしらった浴衣を着たジュリアさんが事務所にやってきた。


「王子ー、ジュリの浴衣姿、どう?ほら。」


片手でたもとを持ちあげ、体を半回転させながら披露するジュリアさん。


「あ、ああ、かわいいね。」


ふふふ、王子様、今夜はたっぷりとジュリ姫のエスコートをしてもらいますよ。


―――あ、という事は私は先生と…。


(わ…どうしよう!恥ずかしいんですけど)


やばい。

さっきの事を思い出して、一気に顔に熱が集中してきた。

私はうつむいて、仕事に集中しているふりをした。



「もう、ほらみんな早く早く!王子のお仕事は―――終わったんだ。さすが、優秀~♪」


ジュリアさんはひらひらとたもとを振りながら、剣淵先生のデスクへ近寄った。


「コータロー先生は?まだぁ?仕方ない、ジュリが手伝ってあげるから早く終わらせようぜ。」


「チッ、こんな時だけゲンキンな奴だな。ま、いいか。これ両面コピーして。」


「了解~!」



そんなわけで、仕事を終わらせた事務所のスタッフ全員で


よつば神社のお祭りへと向かった。




―――ピンク色に染まった空の下を五人でワイワイと歩く。



カランコロンと下駄の音。


色とりどりの提灯。


遠くから聞こえる祭囃子。



私の前には、安城先生と並んで歩く剣淵先生の背中があった。


先生は背が高いなあ。背中も広いなあ。


冗談を言って笑っている横顔に、夕陽が映えてまぶしすぎる。




『この子は俺のもんなの。わかるか、俺の女って事だ』




あの場限りの嘘だったけれど


先生のセリフが、耳の奥にはっきりと残っていた―――

 
< 105 / 162 >

この作品をシェア

pagetop