弁護士先生と恋する事務員
「そうだ、尊も呼んでみるか。あいつ最近つき合い悪ぃんだよな。釣りにも顔出さねえし。」
歩きながら、先生がスマホを取り出して電話をかける。
「何かあったんでしょうかね」
「最近ちょっと荒れてんだ、あいつ。」
「そうなんですか…」
尊君の事はずっと気になっていた。
先生と仲良くなってメールのやりとりをしていると聞いて安心していたけれど――
「……出ねえな。何やってんだ、あいつは。……うわっ、またお前か!俺についてくんなよ」
いつの間にかパンダが、シッポを振りながら先生の後をついて来ていた。
「きゃっ…」
「わあ…」
周りにいた人たちが、突然現れた野良犬に驚いている。
「こら、こんな所に来たらダメだろ、帰れよ、シッシッ」
先生が慌てて追い払うけれど、パンダは嬉しそうにシッポを振るばかり。
「ここにいたらまずいですよね、あっちの広い道に行きましょうか。」
私たちは広くて、比較的空いている道の方へと進んで行った。
「あら、先生と詩織ちゃん。仲良くお揃いで。後でうちの店寄ってよ。」
商店街の居酒屋のおばちゃんが、出店から声をかけてきた。
「あらら、ジョンも来ちゃったのかい?先生が好きなんだよねえ、ジョンは。」
ジョンというのはパンダの事らしい。
「ねえおばちゃん、この犬誰が飼ってんの?」
「んー、誰が飼ってるってわけでもないんだけど、商店街に住み着いてんのよ。みんなでかわいがってるのよ。」
「このまま放しておいたら野犬狩りにつかまっちまうよ?」
「大丈夫よぉ、首輪も付けてるし。ジョンが来て一年ぐらい経つけど今まで一度も捕まったことなんかないんだから。
ほら、おいで、ジョン。先生たちはお祭りに来たんだから、邪魔したらダメだよ。」
おばちゃんが呼ぶと、パンダはやっぱりシッポを振りながら出店の奥へと消えていった。
「…ったく…」
先生は苦虫をかみつぶしたような顔をしてムッスリしている。
「先生、とりあえず夜店周ってみましょうよ!私、お祭りに来たのなんて小学校の時以来なんです。」
「ほんとか?……よぅし、じゃあ周ってみるか。」
「はいっ!!」
先生と二人でお祭りを歩けるなんて。
嬉しくて、つい大きな声で返事をしたら
先生はちょっとびっくりした顔をして、それから
ふっと優しい顔をして笑ってくれた。