弁護士先生と恋する事務員
温かみのある色の電球の下に、水色の水槽を泳ぎまわる
赤や黒の小さな金魚たちの姿があった。
その前にずらりと並んでしゃがんでいるのは
獲物を狙ってポイをかまえる、真剣な子供たちの姿。
やっぱり金魚すくいを見ると、夏祭りの代表みたいで風流だなと感じる。
「きれいですね、先生。」
「ああ?そうか?」
一歩後ろの位置から、子供たちを見下ろす形で立っている先生と私。
さっきから先生はなぜか、興味ないと言わんばかりの態度。
「もしかして、金魚が嫌いなんですか?」
「別に好きでも嫌いでもねえよ。ただ、金魚すくいはやらねえし、すくっても絶対に飼わねえ、それだけだ。」
「ふうん?」
(………………)
「もしかして、昔飼ってたペットが死んじゃってからトラウマになったとか。」
その時、先生は確かにぎくっとした表情をして
それから悔しそうに私を睨んだ。
「あ……図星、なんですね。」
何気なく言った言葉はどうやら核心をついてしまったみたいだ。
「そ、そうだったらなんか文句あるか」
「そうだったんですかー。だからパンダの事も……」
「―――チャッピーが死んでから、俺はもう絶対に何のペットも飼わねえって決めたんだ。あのでっかい金星に誓ったんだよ。」
先生は大真面目な顔をして、夜空のてっぺんにひときわ輝く星を指差した。
「あれはベガですね。夏の大三角の一つです。」
「…何星でもいい。」
なにげにムッとされてしまった。
「ああ、チャッピーの話でしたよね。先生はチャッピーをかわいがってたんですね。」
「……俺が小2の時、段ボールに入って道端に捨てられていたのを拾ってきたんだ。まだ生後まもなかった。
うちの親父は絶対に反対するから、初めは俺の部屋に隠してこっそりエサをやったり外へ連れ出したりして…」
「ワンちゃんですか?」
「ああ、そうだ。柴犬の血の混じった雑種だな。体が丸くて手足が太くてシッポがくるんと丸まってて、ぬいぐるみみたいだったんだぞ。」
先生は遠い空にチャッピーの面影を見ているのかもしれない。
「寝るのも一緒、風呂も一緒。ちょっと落ち着きがなくてチャカチャカしてたけど、かわいい奴だったな。」
ああ、目に浮かぶなあ。
小学生だった先生が、捨てられていた子犬にチャッピーって名前を付けて
親に隠れてまで一人で世話をして、どれほど可愛がっていたのか。
そしてその犬が死んじゃった時、どれほど悲しんだのか。
先生は、大人になった今でも
バカみたいに純粋な所を持っている人だから、
その姿が容易に想像できるんだ。
「それじゃあ金魚すくいはやめにして、境内まで歩きましょうか。おみくじとか売ってるのかな。」
「ああ、行ってみるか。」
私と先生は、石畳の上を
うす暗い境内の方へと向かって歩き始めた。