弁護士先生と恋する事務員
「私も、おばあちゃんちで飼ってたインコが死んじゃった時、すごくショックで大泣きました。」
屋台から外れて、人気もまばらな境内へ入る。
「おばあちゃんがインコをお庭に埋めてあげようねって言った時、私絶対に嫌だって言ったんです。さっきまでかわいがっていた子を、土の中に埋めるなんて…
思えば“お墓”ってものがよくわかってなかったんですね。」
話をしながら参道を歩き続け、拝殿の前で何気なく立ち止まる。
「だけど、その時おばあちゃんが教えてくれたんです。
お別れするのは悲しいけど、一緒に過ごした時間を
どれだけ大切にできたかが大事なんじゃないかい?って。
詩織はたくさんかわいがったから、インコと過ごした時間を大切にしたねえ。後は、ゆっくり眠れるように土に返してあげようねえって。
だから先生にかわいがられて、チャッピーも幸せだったと思いますよ。」
うす暗い広場に、涼しい夜風が吹いてくる。
先生は私をみつめて、ふっと苦笑を洩らした。
「いい年したオヤジが10も年下の女に、子供を諭すみたいに慰められてりゃ、世話ねえなあ。」
先生は眉根を寄せて、困ったような顔で笑い続ける。
「わ……、ごめんなさい。私、何語ってるんだろ。そんなことぐらい、誰だってわかってますよね。」
物知り顔で語ってしまった自分が恥ずかしい。
先生だって本気で子供の頃の気持ちを引きずってるわけじゃないのに―――
「お、おみくじ探しましょうか。ここには置いてないのかなあ?」
変な空気を取りつくろうように私が歩き始めた時、
先生の手が、それを止めた。
「……?!」
拝殿の横に立ち並ぶ人気のない林へと、先生は私の手を引いて歩いた。