弁護士先生と恋する事務員
「俺は尊の知り合いだ。携帯と財布、中身ももちろん返せよ?カネ、抜き取ってねえだろうな。」
「は、はあ?誰それ。知らねえし。人違いじゃね?」
しらばっくれる少年。
先生は無言で自分のスマホを取り出しさささと操作すると、茶髪ピアスが持っている黒いスマホから「セカイノオワリ」の着うたが流れ出した。
「面倒くせえからこれ以上ぐだぐだ言うな。俺は弁護士だが仕事上警察にも知り合いはたくさんいるんだ。なんならこれから呼びだしてもいいんだぞ?」
先生の淡々とした口調が逆に威圧感を与える。
少年たちが、バツ悪そうな顔をしながら、(どうするよ?)と視線でアイコンタクトを取り合っている。
リーダーらしいイカツい坊主頭が(返してやれ)と顎で合図すると
茶髪ピアスは渋々先生に財布とスマホを手渡した。
先生は財布の中身を確認すると私にそれらを手渡し、
いきなり坊主頭と茶髪ピアスの襟首を力いっぱいぐいっと掴んだ。
「うぐっ――!!」
「げぇっ!!」
襟元で喉が絞まって苦しげな声を上げる二人。
「いいか、今後一切尊に関わんな。もし変なマネしやがったら、俺は社会的地位でもコネでもなんでも使って、どんな事があってもお前らを後悔させてやる。わかったか!?」
久しぶりに見た、先生の恫喝。
時々、案件がらみで相手側から脅しや嫌がらせを受ける事もあるのだが
そういう時にだけ発動される先生の啖呵。
不良学生ごときでは太刀打ちできない程の凄味がある。
「わ、わかった…」
坊主頭がそう言って、やっと先生が手を離すと、少年たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ帰って行った。
「無事に取り返せて良かったですね、先生。」
「…尊のバカが。あんな奴らとツルみやがって。」
先生は悔しそうに呟いた。
「とにかく、尊君を探しましょう!もう一度、雄太君のうちに電話してみましょうか?」
先生はしばらく遠くのどこかを見つめながら顎の髭を触って何かを考えていたが
「いや、一旦事務所に戻ってみるか。」
「わかりました!」
私たちは今度は車を使わず、数丁ほど先にあるうちの事務所へ向かって走り始めた。