弁護士先生と恋する事務員

 名犬パンダ



商店街に入ると、後ろからハッ、ハッ、と短く息を吐く音が聞こえて来て、振り向くとパンダが走って追いかけてくる所だった。


「ハア、ハア、パンダ…」


「今お前と遊んでるヒマはねえんだ、悪ぃな。」


私たちがかまってあげられないとわかっても、パンダはぴったりついてくる。


「…………」


先生は横を走るパンダを見てしばらく何か考えて。


「いや、お前案外役に立つかもしれねえな。」


そう言うと足を止め


「ちょっと貸せ。」


私が持っていた尊君のパーカを掴んで、パンダの鼻先に近づけた。


「ほら、これが尊の匂いだ。今コイツを探してんだ。お前、俺らより鼻が利くだろ?探してくれよ。」


先生がそう言うと、パンダは言葉がわかるとでもいうように、クンクンと匂いを嗅ぎだした。


(いくら犬でも、訓練された警察犬じゃないと難しいんじゃないかなあ)


内心無理だと思っている私とは反対に、先生は根気よくパンダに言い聞かせ、何度も匂いをかがせている。


しばらくすると、パンダはアスファルトに残る手掛かりを探るように

事務所の方向へ向かって歩き出した。



「尊君の匂いを感じているんでしょうかね?」


「わかんねえな。だが、今はこいつを信じてついて行くしか手立てがないからな。」


「そうですね…。パンダ、頑張って!」



パンダは鼻をヒクヒクさせながらどんどん歩き進め、

とうとうよつばビルの前まで到着した。


「事務所で止まりましたよ?尊君、来てるのかな!」


「よし、行くぞ。」


先生と私は数段飛びで階段を駆け上がり、事務所のドアの前へと辿りついた。
 
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