弁護士先生と恋する事務員
「親父も嫌い。母さんも嫌い。勝手なヤツらばっかり。」
溜まりに溜まった尊君の苦しい気持ちを
うん、うんと頷きながら聞く先生。
「そうだそうだ、家に帰って言ってやれ、思ってる事全部。」
「家に帰っても同じことの繰り返しだよ…。僕が家を出ていくまでずっと変わらないんだ。」
泣き声の尊君に、先生は言った。
「いや、そうとは限らねえ―――」
「え?」
聞き返す、私と尊君の声が重なった。
「お前のこの先の人生が、180度変わるかもしれねえんだ。それだけは覚悟しておけよ?」
「それって…」
(尊君のお母さんが離婚を決意するって事?)
先生はそれ以上言わなかったけれど、尊君の瞳にわずかに希望の光が宿るのが見えた。
「だけどお前、よくやったな、ブチ!えらいぞ!」
先生は隣に座っていたパンダの頭を、ワシャワシャと撫でまわすと、パンダは嬉しそうにシッポを振ってワン!と吠えた。
その時
ぐぅ~……
「腹へってるよな、尊。」
尊君は恥ずかしそうにはにかみながら頷いた。
「よし、とりあえず帰るぞ。早く帰らねえと母ちゃんが捜索願い出しちまう。さすがにお前、恥ずかしいだろ。」
「えっ、ええ!?それやばいって!マジで勘弁!」
「わはは!俺が家まで送って言ってやる。さ、行くぞ。」
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星空の下をテクテクと歩く三人と一匹の影。
「そうだ、今度この姉ちゃんの作る料理食べに来いよ。」
先生が私を目線で指して尊くんに言った。
「お姉さんの?」
「そうだ。お前の母ちゃんの作る料理も美味いだろうが、詩織も負けてねえぞ。
あったかくて、心がこもってて、最高に美味いんだ。病みつきになるぞ?」
「ちょ…、先生、そんなにハードルあげられたら食べてもらえなくなりますって!!」
褒め殺しとも言うべき先生の言葉を慌てて否定すると。
「いや、本当の事だ。」
先生は大真面目な顔をしてきっぱりと言い放つ。
「詩織の作った料理には、どこの料亭も三ツ星レストランもかなわねえ。
俺が心から食いたいと思うのは、お前の作ってくれた料理だけだ。」
(―――っ、ひゃぁ……)
こんなに真正面から褒められた事なんて、今まで生きてきた中であっただろうか。
私は先生の言葉にぐうの音も出ず
頬が沸騰しそうなほど熱く
心臓が破裂しそうなほどドキドキして本当に困ってしまった。
「―――ねえ、それって… いや、なんでもないっと。」
尊君が何か言いかけてやめたけど、聞き返す余裕もなく。
先生は自分の言葉に照れるどころかむしろ誇らしげに胸を張っているし
パンダはなぜかはしゃいで飛び跳ねるし。
そんな私たちの頭の上を
ソーダ水の泡のようにシュワシュワと
流星群がはじけては消えて行った―――