弁護士先生と恋する事務員
「はいはい、来たわよ~煮込みハンバーグ。ほらジュリア、テーブルのスペース空けて。はい、どぉーん!」
柴田さんが出来上がった料理の大皿を次々とテーブルに置いて行く。
「次はジャガイモのニョッキ、ゴルゴンゾーラソースゥ。そしてラザニア。ソニアちゃん、じゃんじゃん尊君のお皿に取ってあげて。」
「了解ー!」
「おい、ジュリア、ビールくれ!」
「ちょっと待ってねー、王子の次に持って行ってあげるから♪」
「お前の安城贔屓、いちいちムカつくんだよ!」
ラタトゥイユ。
トマトの冷製パスタ。
ビシソワーズ。
旬のお造り。
焼き鳥盛り合わせ。
明太子ときゅうりとチクワ和え。
サバの味噌煮。
肉じゃが。
子供向けのメニューもたくさん盛り込んだつもりだけれどどうだろう?
内心ドキドキしながら尊君を盗み見ると
すっかり打ち解けたジュリアさんとワイワイいいながら
モリモリとたくさん食べてくれていた。
(わ、良かった…)
今回もどうやら楽しい夜になりそう。
ほっと胸をなでおろして、私は肉じゃがの大きなジャガイモをほおばった。
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みんなのお腹が膨らんで、ほろ酔い加減になってきた頃。
話題は先生のダンディーなお父さんへと移っていた。
「ほんっと、素敵な方だったわ!オトコマエなお父様よね。」
「ああ、俺に似たんだな。」
「いや、逆だし。」
先生のボケにさらりとつっこみを入れる尊君。
この二人は年の差を越えて本当にウマが合うみたいだ。
しばらくすると、先生は隣に尊君を座らせて、男同士の語りを始めた。
「こう見えてもな、俺は業界ではちょっとした有名人なんだぞ。」
「へえ、そうなんだ。『キレ者弁護士』とか?」
「いや、その逆だ。『剣淵家のバカ息子』ってな。わはは!」
「ええっ!?なんで?」
驚く尊君。私も初めて聞く先生の話に興味津津、耳をそばだてる。
「俺の親父は、街中のでっかいオフィスビルで法律事務所をやってるんだ。
弁護士の数は何十人もいて、クライアントは商社やでかい銀行ばかり。
まあ、法律事務所の中では花形っていうのかな。」
「へえー、すごいじゃない!」
「で、そこのボスの息子でありながら親の事務所を継ごうとしない俺は、おや不孝のバカ息子なんだと。」
「何それ!?ひどい言われようだね。腹立たないの?」
先生の話を聞いて尊君の方がプンプンと怒りだした。
「他人がどう言おうが関係ねえさ。そんな事いちいち気にしねえんだ、俺は。」
余裕のセリフとは裏腹に、悔しげにギリギリと歯ぎしりをする先生。
「めっちゃ気にしてるじゃん。」
「そうとう根に持ってるみたいだね。」
ヒソヒソ話をするジュリアさんと尊君を、先生はギロリと睨みつける。
「だがな、言われっぱなしだったわけじゃねえぞ?陰口叩く奴らには、言う事だけはガツンと言ってやったさ。」
「そうなんだ?何て言ってやったの?」
「『バカって言う奴がバカなんだよ!!』…ってな。」
なにげに聞いていたみんなが一瞬、静まりかえった。
「プッ!どんなカッコいいセリフ言ったのかと思ったら…やばい、吹いた!ねえ、タケル君!」
ジュリアさんが大笑いしながら尊君に同意を求めた。
「…うん、小学生の時以来聞いた事ない、そのセリフ。」
「さっきからウルセーな、ジュリア。俺の語りにチャチャ入れるんじゃねえよ!」
先生は立ちあがってジュリアさんの頭にゲンコツをグリグリと押し当てた。