弁護士先生と恋する事務員
仕事中にふざけていると思われて、怒られてしまった。
いや、ふざけていたつもりじゃないけれど、安城先生とやり合っているうちに
今朝のショックがいくらか和らいだのは事実なわけで。
(仕事中におしゃべりはよくないよね。反省。)
それにしても、先生の声、いつもより怖かった。
よっぽど込み入った話でピリピリしているんだろうか。
朝からショックな出来事に打ちのめされていた私だけれど
私情がどうであれ、お仕事はきちんとやらなくては。
私は新しいお茶を入れて応接セットで話を続けている三人の前に運んだ。
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「光太郎、顧問弁護士の件、引き受けてくれないか。」
「なんで俺なんですか?お父さんの事務所にいくらでも精鋭がいるでしょう。それにこう見えても俺もけっこう忙しいんですよ。
顧問になんてなったら、他の仕事まで手が回らなくなってしまいます。」
「確かに、わたしの事務所には優秀な先生方がたくさんいるよ。だが、誰とでもいいわけじゃない。弁護士同士でも相性っていうものがあるだろう。
その点、つきあいの長いお前達なら、ばっちりだ。」
(………!)
自分のデスクで仕事をしながらも、どうしても三人の話に耳が集中してしまう。
『ついあいの長いお前達なら、ばっちりだ』
ついつい、こういう言葉に反応して勝手に傷ついてしまう。
(つきあいって言っても、恋人同士だって決まったわけじゃない。
友人関係なのかもしれないし。そうだよ、きっとそういう“腐れ縁”なんだ。)
私が無理やり自分を励まそうとしているのに、
いつもながらの迷探偵、柴田さんの推理がグサリと刺さる。
「ねえねえ、今の言葉、意味深よね~。芹沢先生って、剣淵先生の彼女なのかしら。」
グサグサグサ!!
や、やめて、柴田さん!これ以上傷をえぐらないで。
あーあ、あんなに自惚れちゃダメだって気をつけていたのに
一世一代の告白をするつもりだった私って、どこまでオメデタイんだろう!
詩織のバカバカバカ!
「ん~、でもここの事務所に来てから一度もあの人の姿を見た事なかったわよね。先生もいろんな女の人と会ってたみたいだし。」
迷探偵の推理はまだ続いている。
だけど、どんな言葉も今の私にはきついだけ。
キーボードを打ち込む指先が、何度もミスタッチを繰り返す。
「という事は、やっぱり元カノよ。―――あ!!
『昔泣かせた女』…
紫のバラの人の正体はあの人なんだわ、芹沢冴子さん!」
探偵が最後の一言を言い終えた時、保存前にパソコンがフリーズした――