弁護士先生と恋する事務員
(煩悩に負けて悪魔と契約を交わしたら、きっととんでもないバチがあたるんだ。怖い怖い!)
「やめてくださいよ。そんな汚い手を使って先生とうまくいってもしょうがないです。」
「ふうん?」
あ、そ。という感じで安城先生が相槌を打った。
「安城先生こそ不毛な恋愛ごっこはやめて、そろそろ自分の幸せを考えてみたらどうですか?
今まで安城先生が人脈を作ってお仕事取ってきてくれた事には感謝してますけど…」
「お前のボーナス減ってもいいの?」
(う…)
「ボ、ボーナス減るのは辛いけど、つきあってる女の人達は、そりゃあ最初こそ剣淵先生狙いだったかもしれないけど、今は安城先生の事本当に好きなんじゃないですか?
そんな女心を利用するようなやり方は、やっぱりダメですよ。」
そうだ。私だって今、失恋しかけて辛い思いをしてるんだから。
人を好きになる気持ちって、その人にとってはすごく大切なものだもの。
恋する心を手玉に取るだなんて、やっぱり良くないよ。
「私も最近じゃ、商店街のおじちゃんやおばちゃん達の知り合いもうんと増えたし…
私もがんばって営業します!仕事取ってきます!だから安城先生は本当に好きな女の子とつきあって、幸せになってくださいよ。」
ちょっと驚いた顔をして聞いていた安城先生は、フッと笑うと
「伊藤さんってけっこうかわいい奴じゃん。」
(は?)
安城先生にしては珍しく、自然な笑顔を見せると
私の頭をナデナデしてきた。
(えっ…)
「イトーちゃんかわいいから、特別に教えてあげる。
お前、可能性ゼロじゃないよ。俺最近気づいたんだけどさ」
安城先生はきらりと目を光らせると私に言った。
「俺が伊藤さんかまってる時、剣淵先生すんごい露骨な顔する時あるんだよ。何ていうかなあ…
『ムカッ!』もしくは『イラッ!』みたいなさ。
本当だって、疑うなら後で証明してやるよ。」