弁護士先生と恋する事務員
二人のカンケイ
―――それから数日が過ぎて行った。
企業の顧問弁護士の件はどうなったのかというと。
「だけどさあ、M&Wの顧問弁護士になったら報酬がっぽがっぽよねぇ。新しいクーラーだって買えちゃうわ。
やっぱり先生引き受けてくれないかしら。がははは!」
両手の指を丸めて“オカネ”のジェスチャーをしながら
柴田さんはズルイ顔をして笑っている。
「顧問の件は断ったみたいですよ。今だって事務所の仕事がつまって手いっぱいですからね。
その代わり、一つの大きな案件だけは芹沢先生と共同でやるってことで話はついたみたいです。」
安城先生が言った。
その大きな案件とやらのせいで、近頃めっきり、芹沢先生と剣淵先生の同伴外出が多くなった。
朝事務所を出たっきり、夕方まで帰らない事もある。
今も、二人がいない事務所内で私たち三人でおしゃべりをしているのだった。
「なあんだ。それじゃあ来年も、イマイチなクーラーで過ごさなくちゃいけないんだわ。がっかりー。」
「がっかりしてる場合じゃないですよ、柴田さん。
芹沢先生の目的、気づいてますか?」
安城先生が深刻な表情を作って柴田さんに問う。
「目的?剣淵先生といちゃいちゃしたいだけじゃないの?」
「違います。剣淵先生になんとか、お父さんの事務所を継がせようとしてるんですよ。」
「え…」
目を丸くする柴田さん。
「初日に剣淵総一郎先生と一緒にここへ来たでしょう?
芹沢先生は、いわばお父さんから送られて来た刺客なんですよ。
うかうかしてたら、先生、連れていかれちゃいますよ。」
「ええー?!」
危機感を煽る安城先生の言葉に、私まで不安になる。
(だいじょうぶだよ、きっと。
だって光太郎先生の事務所はここだもん。)
(やっとの思いで形にしたって先生、言ってたもんね。)
そう思いながらもどこか不安な気持ちを抱きつつ、
(先生、早く事務所に帰ってきて。)
がむしゃらに文字を打ち込みながら、気を紛らわせる毎日だった。