弁護士先生と恋する事務員
「えっ、いいの!?」
目を丸くする柴田さん。
「それじゃあ、遠慮なく。どれどれ…」
本当に遠慮なく先生からカードを受け取ると
声に出して読み始めた。
「なになに?
『剣淵光太郎先生。
いつもお仕事お疲れ様です。
秋風が吹き始め、過ごしやすくなってきましたね。
季節の変わり目ですので
体調を崩しませんように、どうぞご自愛ください。
追伸、一身上の都合により、花束はこれで最後になりますが
先生のご活躍をずっと応援しています。
どうかお元気で。佐倉』
え?今月で最後なんだ!?」
神妙に読み上げていた柴田さんが、すっとんきょうな声を上げた。
「え、そうなんですか。なんだか寂しくなりますね。」
と、安城先生。
「あら先生、求婚するはずだったのにねえ。」
「ああ、プロポーズ、しそびれちまった。」
先生はそう言って、苦笑いをした。
「だがまあ、事務所を開いて間もなくから今まで、よく送ってくれたよ。」
「うーん、きっと佐倉さんにも、リアルにいい人できたんでしょうね。
もしかしたら、結婚するのかもしれないわね。この字を見たら、いい大人の女性って感じだものね。ほら。」
柴田さんが安城先生にカードを見せている。
「本当だ、達筆ですねえ。ペン字のお手本みたい。」
「ね?」
「―――結婚、か。」
先生がポツリと呟いた時、事務所のドアが開いた。