弁護士先生と恋する事務員
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「よぅし、終わったぞ。」
先生もパソコンを閉じて、机の上を片付け始めた。
「お疲れ様でした!」
天気はますます荒れて来て、真っ暗な空の彼方で雷鳴が轟いている。
「それじゃあ、帰りましょうか。」
戸締りをして先生の横に立った私に、制するような声で先生が言った。
「詩織、ちょっといいか。」
「――はい?」
先生は、自分の隣に椅子を引っ張ってきて、私に座れと促す。
「――あのさ…」
言いにくそうに一旦視線を外し、髭を撫でる先生。
(何だろう…)
なんだか嫌な予感で、胸がざわざわする。
「……なんで、やめるんだ?」
「――え?」
「…花」
先生の言葉に、ジワリと冷たい汗が手のひらに滲む。
「――詩織なんだろう?ずっと送ってくれてたの。」
まっ白いバラの花束に顔を向けて、先生がそう言った。
「え…ちが…」
心臓がドキドキして、頭の中が真っ白になる。
「何度もお前じゃねえのかと思ったが、字が違うから俺の考え過ぎだと思ってた。
だが、このカードに書かれている字もその月によってバラバラだってことに気づいた。」
ドキドキドキドキ……
悪い事を見つかった子供みたいに、私の心臓が縮みあがる。
「花屋で代筆してくれるサービスがあるんだな。ネット注文か何かか。」
ふるふると、私はただ頭を振って弱弱しく否定するだけ。
「教えてくれ、詩織。なんで俺に毎月花束を送ったりした。なんで今月でやめるなんて書いてきた。」
先生の手が、私の腕を掴んだ。
「お前、―――安城と結婚でもするのか」
アンジョウ?なんで安城先生が。意味がわからない。
とにかく、先生に気づかれてたなんて恥ずかしくてみっともなくて、この場にいる事が辛かった。
「わ…たし……、すいません…帰ります… さよならっ…」
「おいっ、待て!!」
先生の手を振り切って、外に飛び出した。
土砂降りの雨の事なんてすっかり忘れていた。
傘をさしている余裕なんてなくて
私は滝のような雨の中を、迷わず駆けだしていた。