弁護士先生と恋する事務員
結ばれた心
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「なんかひでぇ事になってるな、俺ら。」
「そうですね。」
とりあえず事務所に戻って、ずぶ濡れになったお互いの頭をタオルで拭き合っていると
急に冷静さを取り戻して、顔を見合わせて苦笑してしまった。
「ククク…必死すぎてみっともねえなあ、俺。」
「私こそ、思わず逃げちゃってごめんなさい。」
月明かりだけが差し込む青白い室内で、
私たちは向かいあって、お互いの瞳を見つめてほほ笑んだ。
そしてほほ笑みが止むと
どちらからともなく、ゆっくりと引き寄せられるように近づいて
さっきとは真逆の、優しく、慈しむような口づけを交わし合った。
*.....*.....*.....*
長い長いキスが終わってようやく唇が離れると、私は言った。
「先生?」
「なんだ」
「私、安城先生とつきあってなんかいません。」
「……安城に好きだって言ってたじゃねえか。」
「そんな事言ってません。私はずっと…」
先生の頬にそっと手を伸ばして、触れる。
「ずっと、剣淵先生しか見てません。」
「…………」
長い沈黙の後、ため息のように先生が
「そうか…」
と言った。
「良かった―――」
先生は私の体を、ぎゅっと抱きしめて呟いた。
「お前が他の男に奪われなくて、本当に良かった…」
先生は鼻先を私の肩にうずめてそう言った。
「お前が安城と付き合ってるんじゃねえかと思った時――
今まで生きて来てこんなに後悔した事はねえってぐらい、悔んだんだ」
かすれた先生の声に、胸がキュンとしめつけられる。
私は先生の髪をそっと撫でながら言った。
「先生だけです。ずっと前から、先生の事が好きでした。」
窓際に飾られた、まっ白いバラの芳香が漂ってくる。
風を失った風鈴は、ただ静かに月を見上げていた。
重なった二人の影が、白い漆喰の壁に映り込んでいる。
「んっ……」
甘いキスに、吐息が零れる。
「………は…」
先生も、短い息をもらした。
「詩織…俺はどうしようもないくらい、お前に惚れてるよ…」
「先生、……嬉しいです…」
お互いの唇を吸ったり
下唇を甘く噛んだり
離れては角度を変えてまた繋がったり
気持ちを分けあうような深い深いキスに
二人は溺れていった―――