弁護士先生と恋する事務員



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リビングの大きな窓からは、晴れ渡った青空が見えている。


先生の家の冷蔵庫には食料の在庫がゼロだから

近くのコンビニで食パンを買ってきて、

二人は遅い朝食を食べていた。



バタートースト

ハムエッグ

野菜サラダ

コンソメスープ。


簡単なものしか作ることができなかったけれど

先生がいいって言ったら、これから少しずつ調理器具を揃えていこう。



先生に借りたシャツはとても大きくて、ワンピースみたい。

彼氏のシャツを着て朝食だなんて、なんだか照れくさい。


あとからあとから湧いてくる、じわじわした幸せにホカホカした気持ちでいると


「あ、そーいやぁ」


ちぎったパンの耳に卵の黄身をつけながら、先生はふと思い出したように言った。


「お前が事務所に来たのって、去年の秋だったよな。」


「はい、そうです。」


「あの花束って、俺が事務所開いてすぐから送られてくるようになったんだよなぁ。」


「……ああ、そうでしたね。」


先生は、私の顔をまじまじと見つめると


「事務所開いたの、三年前だぞ?」


「……う…」



「お前、いつから俺の事、知ってたんだ?」



とうとう、その疑問に辿りついちゃったか。


――ってか、普通に考えたら不思議に思うのも無理ないよね。



「ええーと…」



私はもじもじと手元のパンをいじってから、小さな声で答えた。



「8年前、ぐらいかな」



「あ!?」


パンを口に運ぼうとしていた先生の手が、宙で止まる。



「――――8年前!?」


「あ、はは、だいたい、ですけどね」




窓から見える空に、ゆっくりと雲が流れている。




「詩織、お前……」




先生と私の間だけ、時間が止まったみたい。




「―――お前、誰、なんだ?」



 
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