弁護士先生と恋する事務員
もみ合ったからダテメガネはどこかへ飛んでいくし服も髪もぐちゃぐちゃで
明らかに不審な中学生と化した私は、行くあてもなく家から遠く離れたコンビニ前でしゃがんでいた。
逃げ切れた安心と、抜けきらない恐怖心で呆然としていると
今度は数人の若い男達が声をかけてきた。
「お前、何やってんの?」
「中坊?家出か?」
「行く所ないんだろ?俺らと一緒においで。」
何だかもう泣きたくなった。
せっかく命からがらあいつから逃げて来たっていうのに
今度は複数に取り囲まれるなんて。
なんで女っていうだけでこんな目に合わなくちゃいけないんだろう。
私の事なんて、誰からも見えなければいいのに。
「ほら、来いよ。」
「大丈夫大丈夫、俺らみんな優しいからね。」
「やめてくださいっ…やだっ!」
困った時の神頼みっていうけれど、あれって本当だ。
男たちに囲まれて腕を掴まれてズルズル引きずられている時
私は本当に祈ったんだ。
神様、助けて――――!!
――その時。
「何やってんだ、お前ら」
たまたま通りがかった男の人が
異様な雰囲気に気づいて声をかけてくれたんだ。
「おい、何やってんだって聞いてんだろ」
低い声。
見上げるほど高い身長。
広い肩幅と胸板。
黒いストレートヘア。
スキっとした顔立ちに、甘い瞳。
神様っていうより王子様に近いその美形の人は
男の集団をかきわけて私を助け出してくれた。
「なんだ、ガキじゃねえか。こんなガキ相手に寄ってたかってバカか!」
男たちが絡もうとしたけれど、通行人が集まりだしたから逃げていった。
*.....*.....*.....*
「何時だと思ってんだ?ガキがほっつき歩く時間じゃねえぞ。」
私を助けてくれた男の人は、ちょっと言葉遣いが荒くて
だけどその表情や声からにじみ出るオーラは
少なくても中学生をどうにかしようとする男達とは明らかに違う人種だとわかった。
それでも
「お前、名前は?」
そう聞かれた時、警戒心の強い私はとっさに実の父親の苗字を名乗った。
「…佐倉」
「桜か。」
その人は、名前として受け取ったようだった。
「お前んち、この近くか?どこか教えろ。送っていってやる。」
男の人は腕時計を確認して、急かすように私に歩けと促した。
でも私はただうつむいて首を振るばかりだった。