弁護士先生と恋する事務員
エピローグ
空がずいぶんと高くなった。
川沿いの遊歩道にはススキやエノコログサに混じって
ひざ丈まで伸びたオミナエシが黄色い花を咲かせている。
*.....*.....*.....*
毎週末、先生のマンションで過ごすのがすっかり定着してきたこの頃。
洗面所やキッチンに少しずつ私の物が増えてくるのを見ていると、
私にもようやく、先生の恋人になったんだという実感が湧いてくるようになった。
「ふあー。天気いいなあ。」
日曜の遅い朝食の後。
ベランダを開け放って大きく伸びをする先生。
Tシャツの上からでも、背中や腕のたくましい筋肉が見てとれる。
「散歩でもすっか、詩織。」
窓際から私を振り返ってニカッと笑った先生が、そう言った。
*.....*.....*.....*
そんなわけで、私と先生は川沿いの道を
のんびり、ぷらぷらと歩いていた。
「今週も忙しかったですね。」
「ああ。忙しいうちが花だからな。」
「でも、ちゃんと体を休めてくださいね?晩ご飯も栄養のあるものを食べてくださいよ。」
「詩織って、心配性の母ちゃんみてえだよなぁ。わははは。」
先生に笑われて、またやっちゃった、と思う。
いくら見た目をイマドキの女の子風に装っても
染みついたおばあちゃんくささはなかなか抜けきらないものだ。
(あーあ。せっかく先生と恋人同士になれたっていうのに
こんなんじゃ、そのうち先生に冷められちゃうよ。
もっと先生をドキドキさせるような女の子になれたらいいのに。)
所帯じみた自分の言動に頬が赤くなり、すっかり恥じ入っていると
予想に反して私を見つめる先生の瞳がひどく優しい。
ドキン。
先生の整った顔立ちにはいまだに慣れる事は出来ない。
キスをしたり、抱き合ったりする仲になったのに
私はこうして、先生にずっとドキドキさせられていくんだろうなあ。