弁護士先生と恋する事務員
「ウォン、ウォン!!」
「あ、パンダ。」
どこからともなく現れたパンダが、シッポを振りながらついてくる。
「ブチか。よしよし。」
道端にしゃがんだ先生が、頭をワシャワシャと撫でてやると
パンダは飛び跳ねて喜んでいる。
「最近、すっかり仲良しになったんですね。」
その様子を微笑ましくみていると、
「あー。俺、コイツ飼う事にしたんだ。」
先生は、ちょっとコンビニに行ってくるわ、ぐらいのニュアンスで
あっさりとそう言った。
「え!そうなんですか?わあー、良かったね、パンダ。」
パンダは言葉がわかるかのように、
クローバーやオオバコが生い茂る草はらを跳ねまわった。
「あ、だけど先生のマンションって、ペット可でしたっけ?」
「いや。だから引っ越す。」
「ええ!」
そうなんだ。
せっかく私の物が増えつつあったのに
一からやり直しな気がして、ちょっとだけ残念な気持ちになる。
「ちょっとベンチに座るか。」
キラキラ光る川の流れがよく見えるベンチで
私と先生は腰を下ろした。
「どの辺なんですか?」
「商店街から曲がって住宅街に入ったあたり。今のところより、事務所に近ぇんだ。」
「へえ。あの辺りだと、もしかして一軒家?」
「ああ。ジロウさんの知り合いが借り手探してるっつーから見に行ってみたら
和風の家でなあ、縁側があって、庭があって、ちゃんと木の塀で囲われてるからブチものびのびできそうだなと思ってな。」
「へえ…昔住んでいたおばあちゃんちもそんな感じでした。」
私は懐かしく思い出していた。
一番幸せだった頃の、あったかい思い出のつまったおばあちゃんち。
「そうか。俺はサザエさんちみてーだなと思った。」
先生はわははと笑ってそう言った。