弁護士先生と恋する事務員
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いい時間に、おひらきになった。
先生が送ってくれると言ってくれたけれど、いいですいいです、大丈夫です、と言って断った。
私の家と先生の家は事務所を挟んで真逆の方向。
先生には、一秒でも早く家に帰って体を休めてほしいんだ。
「そうか?…それじゃあ、また明日な。詩織、ごちそうさん。」
「剣淵先生、伊藤さん、お疲れ様です。」
「さようなら。」
それぞれが別れを告げて、自分の家へ向かって歩き出す。
きれいな月が夜道を照らし、涼しい夜風がほろ酔い加減に心地いい。
(今日は楽しい夜だったな。また来週、集まれたらいいな。)
私は鼻歌交じりで気分良く家路へと向かっていた。
「―――伊藤さん!」
突然後ろから呼び止められ、驚いて振り向くとそこには息を切らした安城先生が立っていた。
「安城先生?どうしたんですか?」
「僕、送っていくよ。」
「―――はい!?」
「伊藤さんが心配なんだ。僕に送らせてよ、ね?」
安城先生は、甘い声でそう言うと私を見つめた。
(―――っ、なんで………)
私の中には、まだ猜疑心しか湧いてこない。
何かを企んでいそうな安城先生が怖かったけれど、断れる雰囲気でもなかった。
「す、すみません…それじゃあ…」
「良かった。」
安城先生はホッとしたように笑って、私の隣を歩き始めた。
その時、何気なく振り返った剣淵先生の目に
並んで歩く私達の姿が映っていた事なんか
私には知る由もなかった―――