弁護士先生と恋する事務員
しばらくすると、剣淵先生も仕事関係者と打ち合わせのために出かけて行った。


事務所には女子三人―――


「ちょっとお、聞いてよシオリーん!」


安城先生の椅子に座ったジュリアさんは、床の上をゴロゴロと滑らせながら私の横まで来てピタッと止まった。


「どうしたんですか。」

「ジュリ超ショックだよー。この前見ちゃったんだー、王子がさあ~…」


(安城先生の話…?)


嫌な意味で、ドキンと心臓が鳴る。


「女連れー。腕組んでー。イチャイチャしながらジュリのお店の前通り過ぎて行ったもんねー。マジで心折れたし!」

「お店の前…」


ジュリアさんは、街中のファッションビルでネイルサロンに勤めている。


女連れ――

私がこの前見た女の人だろうか。あの人、年上っぽかったけど安城先生の彼女なのかな―――


あ…れ……?


今何か、頭をよぎった。思い出せそうで、思い出せない。
あの女の人って、どこかで見た事あるような気が―――


「しかもさあ、ムカつくのが!…ってちょっとシオリん聞いてるー?」


肩をゆさゆさと揺すられて、首ががくがく揺れた。


「あああ、はい、聞いてます聞いてます」

「ムカつくのがさ、その相手の女って、ホラ、去年の年末あたりコータロー先生にまとわりついてた女!わかるでしょ、あいつなのよ!!」


「えっ……」

「ほら、こう背が高ーくて髪が長ーくて、細ーい人、よく事務所に来てたじゃない。確か先生の友達の知り合いとかいう?」


柴田さんが隣から補足してくれる。


「―――ああ、あの人」

「そうそう、あの女よ!あの人ってコータロー先生狙ってたんでしょう?王子に乗り換えるなんて、セッソーなさすぎ!」

「ほんとよね。うちの弁護士先生二人に粉かけるなんて、やだわね!」


柴田さん親子は盛り上がっている。


(背の高い髪の長い細い人…だけど私がこの前見た人じゃない。私が見たのは――― あっ!!)


思い出した!あの女の人、どこで見たのか。


(あの人も一時期、剣淵先生によく連絡してきた人だ―――)


事務所にも何度か先生を訪ねてきた事がある。


(サングラスをしていたからピンとこなかったけど、エステを何軒か経営してるって言う実業家の女の人だ)


そういえばある時期からぱったり来なくなったけど、安城先生に乗り換えたから?


どうして、剣淵先生の周りの女の人ばかり…


はっ、と気がついた。
昨日、私を誘惑するように近づいてきた安城先生―――


もしかして――!?

 
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