弁護士先生と恋する事務員
苦い記憶
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―――おばあちゃん、おばあちゃんは!?
おばあちゃんはね、具合が悪くなって入院することになったの。
もう年も年だから、長くかかりそうなんだって。
だから詩織は今日からお母さん達と一緒に暮らすのよ。
ほら、お父さんにご挨拶しなさい。
―――お…とうさん……?
やあ、詩織ちゃん初めまして。
今日からおじさんが、詩織ちゃんのお父さんだよ。
―――………
詩織ちゃんはお母さんに似て、美人だなあ。
これからはいつでも、お父さんに甘えていいんだから、ね?
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はっ、と顔を上げると、そこはいつも通りの事務所だった。
柴田さんと安城先生はもう帰っていて
剣淵先生もそろそろ帰り仕度を始めた所だった。
どうやら私はほんの一瞬、居眠りをしていたみたい。
―――うわ……嫌な夢見ちゃった…
大人はいつも身勝手で、子供はいつでも無力な存在だ。
今日の電話がきっかけで
封印していた箱が開け放たれたみたい。
思い出したくない思い出が
無意識の淵から引きずり出される。
「詩織、どうした、詩織。」
剣淵先生が私の机まで来て、心配そうに顔を覗き込む。
「顔色が悪いし、冷や汗かいてるぞ?」
先生が安心させるように大きな掌で私の頭を撫でてくれる。
温かくて、優しくて、いつでも受け入れてもらえる安心感。
いっその事、小さな子供みたいに先生の胸の中でわんわんと泣く事ができたら……
私はぶんぶんと頭を振った。
―――どうもナーバスになっているみたい。
ダメだなあ。
私はもう、大人なのに。
そんな私をじっと見ていた先生は、
いきなり白い歯を見せて二カッと笑ってこう言った。
「よし詩織、これから飲みに行くぞ!一分で帰る支度をしろ。」