弁護士先生と恋する事務員
やんやと急かされながら帰り支度をした私は
先生の背中を追いかけるようにしてよつばビルを出た。
涼しい夜風が汗ばんだ肌を乾かし、夏の星座がチラチラと光を放っている。
「涼しくていい気持ち…」
手を広げ大きく息を吸い込むと、夏の夜の解放感が心を軽くしてくれる。
夜の顔をまとった商店街には、赤ちょうちんがあちらこちらの軒先にぶら下がって揺れている。
私と先生は、その中を並んでぶらぶらと歩いた。
「ようし、高級レストランに連れて行ってやる。」
わはは!と笑った先生は高級レストランの戸をガラリと開ける。
「まいど!」
「剣淵先生と詩織ちゃん、いらっしゃ~い!」
カウンターの中から店長が大きな声で迎えてくれる。
そこは事務所の飲み会で何度も通っている馴染みの居酒屋。
カウンター席だけしかない、小さなお店だ。
「店長、ビール二つ。」
「はいよ!」
ここにはメニューというものがない。
料理は店長がその日のおススメを勝手に出してくれるというシステムだ。
「はい、焼き鳥盛り合わせ。今日の砂肝、ウマイよ。」
「ほら詩織、若いんだからガンガン食え。」
「砂肝大好き。いただきます!」
先生は不思議な力を持っている。
気分のふさいだ時でも、一緒にいるといつの間にか元気になっているんだ。
「塩コショウ、足りねえか。」
「わあ、それかけすぎです!ん~~、しょっぱい!」
「じゃあ、俺が食ってやる。」
先生は私の砂肝を
横からばくっとたいらげた。