弁護士先生と恋する事務員
ビールとワインと日本酒と
「店長!私赤ワインくださーい。」
「はいよ!」
エンジンがかかってきた私は、ビールからワインに変更。
先生はネギマのネギを、歯を食いしばって串から外している。
「で、神原さん、何て言ってたんですか?」
「んー?まあ、尊の事だ。」
「尊君の…」
「ん……」
先生は、やっと外れたネギをモリモリと食べてから話し始めた。
「結局オヤジは一人息子の尊を病院の後継ぎにどうしてもしたいわけだ。だから離婚なんてされちゃ困るしましてや親権なんて石にかじりついてでもとりたいさ。」
「それはそうですよね。」
「そんでさ、離婚の話を切りだした瑶子さんに、お前のわがままで尊の一生を台無しにする気かと。
このまま行けば院長の座が約束されているのに、片親にしてあいつの未来を奪う権利はお前にない。とまあ、想定内の決まり文句だ。」
「そ、そんな事で言いくるめられちゃったんですか!?」
「瑶子さんはやっぱり自分のワガママだったんだ、自分さえ我慢すればいいんだ、……と、まあそう言う事だから離婚は考え直す。そんな話だ。」
「たったそれだけで諦めちゃうなんて信じられない!尊君の気持ちも聞いたんでしょう?子供の気持ちなんて全然考えてないじゃない!」
もう、なんだかムカムカしてきて私はグラスワインを一気にあおった。
「詩織。」
先生がいつになく、たしなめるように低い声で私の名前を呼ぶ。
「必要以上に感情移入するのは冷静になれてないって事だ。俺たちの仕事は離婚を成立させるだけが目標じゃない。」
「それはそうだけどっ…」
「まあ、もっとじっくり対策を練ってから話を進めてもらおうと思ってたんだが……
それが伝わってなかったのは俺のミスなんだよ。」
先生は上を向いて悔しそうにため息をついた。
「まあ、どっちにしても時間が必要って事だ。今瑶子さんはやっとスタートラインに立ったぐらいの所。
これからどうしていくか、少しずつ考えていって、そしてやっぱり離婚しかない、って結論を出したら、それからが俺たちの出番だろう?」
「………」
「詩織は尊の事が心配なんだよな。」
はい、と私は頷いた。
「まあ、尊にも同じように説明したよ、時間が必要だって」
その時、ブーブー、と先生のバイブレーションが震えた。
「あ、ちょっと悪ぃ」
(あ…例のマメにメールをやり取りしている人からかな)
メールチェックしてすぐに返信している先生を見て、心がチクッと痛む。