弁護士先生と恋する事務員

「噂をすれば、だ。」


先生がスマホをテーブルに置いて、そう言った。


「え?」

「尊だよ。あいつしょっちゅうメール送ってくんだよ。『はよー』とか『腹減ったー』とか。今は『ねみー』だと。『寝ろ』って返事してやったけどな。」


先生は枝豆を器用に口に放り込みながら、尊君との話しをしてくれる。


「釣りも一緒にやってんだよ。ほら、釣友。」


そう言って、携帯の無料釣りゲームの画面を開いて私に見せた。


「イベントの時は協力してポイント稼がなきゃ進めねえから、俺より暇なアイツに頑張らせてんだ。」


くくっ、と先生はいたずらっ子みたいな顔をして笑う。


「先生、携帯ゲームやってる暇あるんですか?」


「いや、ぜんぜんねえ。だから仕事もゲームも進まねえんだな、これが!わはは!」


先生は楽しそうにそう言って、ビールのグラスを空にした。


「まったくもう…」


「店長!日本酒。冷で。詩織も日本酒にしろ。つきあえよ。」


けっこうワインで酔いが回って、日本酒は不安だったけど


(私… メールの相手が尊君でホッとしてる…)


なんだか気分が良くなって、調子に乗って飲んでしまった。



日付が変わっていることなど、知る由もなく―――
 
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