弁護士先生と恋する事務員
優しい月の夜
見上げれば、キラキラと輝く一面の星空。
私は先生と二人きり、夜道を歩いている。
―――千鳥足で。
「先生、もう一軒行きますよ~!私について来てくらさーい!」
「詩織、お前酔い過ぎ。歩けてない、ほら、あぶねえっ!」
自分でも、よれよれのへべれけなのはうすうす分かっているのだけれど
どうも酔っ払いは自分を過大評価してしまうらしい。
まだ大丈夫、そんなに酔ってないし。
先生ったら心配し過ぎなんだから。私、ちゃあんと歩けてますよ~……
と思ったら、何でもない所でつまづいて、地面に激突する前に先生のたくましい腕に抱きとめられた。
「……っ、こらっ」
先生が、“メッ”という顔をして私をたしなめる。
「ふわあ、すみません」
「しょうがねえ。日本酒つき合わせた俺も悪かったしな。あそこで少し酔いを醒ましていくぞ。」
「ふいぃ?」
あそこと言われても、先生が指した場所に顔を向ける事すらできなくなっていた。
さすがに自分でもマズイ、と感じる。
「ほら、そこにベンチがあるから、そこまで歩けよ。」
先生に抱きしめられるように引きずられて歩く。
酔いながらも、先生の体温と匂いを感じる。
「ここだ、座るぞ、せーの!」
ゴチッ!!
「あいたー!!」
何か、ものすごーく固いものに頭をぶつけて泣きそうだ。
たぶんベンチを支えている鉄製の手すり。
「あ、わりぃ」
(セ、センセイ……手を離すの早い…)
私の周りには、星がチカチカ、
夜空にも、星がピカピカ。
サラサラという音が聞こえ、ここが近くを流れる小川のほとりだということに気付く。
少しだけ整備されている川岸には、川に沿うように植えられた街路樹と、一定間隔におかれたベンチがある。
私の頭の方にどかっと座った先生は空を見上げると
「ほら詩織、天の川が見えるぞー。」
天体観測を引率しに来た小学校の先生みたいな、大きな声でそう言って
私の額を優しく撫でた。