弁護士先生と恋する事務員
「ここに頭乗っけろ、その方が楽だろ。」
先生はそう言って私の頭をよいしょと持ち上げ自分の腿の上に乗せると
小さい子供にするように、頭をよしよしとする。
まるで自分が小さな妹になったような錯覚に陥る。
おおらかで優しくて、面倒見の良いお兄ちゃん。
なんだか胸がきゅうっと苦しくなって、思わず甘えるように手を伸ばすと
先生は何も言わずに、もう片方の手で私の手を握ってくれた。
小川は静かに、そして淡々と流れ続けている。
夜風はひんやりと心地よく、火照った私の体を冷ましてくれる。
「センセイ…」
「ん…」
「あ、あの… 先生」
「なんだ、どうした?」
うまく言葉に表せないでいる私を、先生は上から覗き込むように見つめている。
「迷惑かけて、ごめんなさい。」
「あ?ははは、こんなの迷惑でもなんでもねえよ。」
優しい笑顔。泣きたくなる。
「法律の事も、まだ全然わからなくて…ちっとも先生の助けにならなくて」
「あん?そんな風に思ってるのか?詩織は。」
ふう、とため息をついた先生が私に言い聞かすような口調で話す。
「いいか、詩織。法律の事なんか、俺と安城の専門だ。詩織は事務やら依頼人の対応やら、よくやってくれてるよ。」
「だけど他の事務所では、パラリーガルっていう法律事務専門の事務員さんがいて効率よくやっているって聞いたし…
私、そんな事も知らないで図々しく働かせてくださいなんて言っちゃって…」
「ああ、ははは。お前が事務所に来た時は驚いたなあ。」
先生は記憶を手繰るように目を細めた。