弁護士先生と恋する事務員
「アポなしで事務所にやってきて、飛び込みの依頼人かと思ったら…『私を事務員として雇ってくださーい!!』って…。直談判ってやつだな。」
「…うん。どうしてもここの事務所で働きたいと思って。安城先生も柴田さんも目をまん丸にしてびっくりしてましたよね…。
そしたら先生、私の履歴書にろくに目も通さないで、『いいぞ』って笑って言ってくれたんですよね。」
「ああ。書類なんて面倒くせえもんは読まなくてもわかる。俺は33年間、直感勝負で生きてきた男だからな。わははは!」
「……それでその直感勝負は…どうだったんですか。」
「ん?」
先生は私の顔を覗き込んでほほ笑んだ。
「もちろん、大当たりだ。」
先生の言葉に、じんわりと胸の中にあたたかいものが広がる。
「詩織、俺はなあ、法律に詳しいかどうかなんてそんな事求めちゃいないんだ。第一印象で、『コイツはいい』と感じたから雇った。」
「……そう…なんですか…?」
「ああ、そうだ。」
先生の手は、相変わらず優しく私の頭をなで続けている。
「うちの事務所に来る人っつーのはさ、みんなトラブル抱えて来るわけだ。不安で、切羽詰まって、誰かに助けてもらいたいーってな。
そこで一番初めに対応するのが、詩織、お前だろ。」
「…はい」
「お前はさあ、こう、見るからにニコニコして感じがいい、ってタイプじゃねえけど、なーんていうかなあ…真心を感じるっつーか…
話しているうちに、この人なら信頼できるって気持ちになるよ。」
「そ、そうですか…?」
「ああ、そうだ。」
先生はまた、きっぱりと言い切って、満足そうに夜空を見上げた。
じわじわと、胸にこみ上げてくるものがあった。
先生が私の事をそんな風に思ってくれていたなんて。
もちろんお世辞混じりのリップサービスかもしれないけれど
それでも私は、嬉しかった。
「先生…」
「なんだ。」
「私を雇ってくれて、ありがとう――」
「どういたしまして。」
先生のカラリとした笑い声を聞きながら、
私、先生の事が大好きだって
強く思った―――