弁護士先生と恋する事務員
「裁判する所って、ここでいいのかい?」
入ってきたのは、70過ぎぐらいのおばあちゃん。
白いブラウス、灰色のスカート姿にエプロンをつけている。
(裁判するのは裁判所なんだけど…言いたいことはわかるから、ま、いっか。)
「今日予約は…されてないですよね。どうしましたか?」
法律相談は一応予約制なんだけれど、こうして時々直接事務所にやってくる依頼主もいる。
「あのね、うちの嫁から慰謝料を取ってほしいんだよ!」
怒りもあらわに、興奮気味のおばあさん。
「お嫁さんから慰謝料を、という事ですね。お嫁さんとどういうことがあったのか聞かせてもらえますか?」
「うちの嫁ったら、アタシの悪口ばっかり近所に言いふらしてるの!これってアレでしょ。『めいよきそん』ってやつ!」
――なるほど。話はだいたいわかったような。
剣淵先生をちらりと見ると、『話を聞いてやれ』というアイコンタクト。
(了解です。)
「お話、こちらに座って聞かせてくださいね。さあ、どうぞ。」
おばあさんを応接セットに案内して、温かい緑茶を出す。
依頼の中には、裁判を起こすほどでもないようなものもたくさんある。
中でもこういった、日々のちょっとしたトラブルなどは、応接セットに向かいあって、うん、うんと相手の話を聞くだけで満足して帰っていくケースがほとんどだ。
そういう時こそ、私の出番。
親身になって話を聞くなら、まかせておいて!
(おばあちゃんと夜なべして何時間も話し相手になった私だもん。)