弁護士先生と恋する事務員
結婚相手に立候補―――
あっけらかんとそう言えるソニアさんの性格を羨ましく思いながらも、先生が何て答えるのか内心ドキドキしていた。
先生の事だから、軽く“そーかそーか、いいぞ!”なんて言っちゃいそうだし…
ソニアさんが口に運んだマグロをパクっと食べると、先生はむしゃむしゃと咀嚼して
「ソニア、お前料理できるのか?」
そう聞いた。
「料理ぃ?それはマジ無理。リンゴの皮ぐらいなら剥けるけどぉ~」
「じゃあまず、メシ作れるようになってからだな。さすがに俺もコンビニ弁当に飽きてきたからな!わははは!」
先生はそう言って大きな声で笑った。
「ちぇー、了解~。はあ、お腹イッパイ、ごちそうさまー。」
ソニアさんはあっさりとそう言うと、空いたお皿を手際よく片づけ始めた。
「それじゃ、洗い物はソニアとジュリアでするね!ああ、ジュリママと料理長は座ってて!後はお任せー。」
「食べ逃げで申し訳ないんだけど、店出なくちゃいけないから、コウちゃんまたね!」
雅美さんはそう言って帰っていった。
テーブルをはさんだ向かいでは、柴田さんと安城先生が世間話に花を咲かせている。
剣淵先生は私に向かって労うように言った。
「詩織、今日もうまかった。ありがとうな。」
「い、いいえ… みんながモリモリ食べてくれて嬉しかったです。」
先生からの優しい言葉が嬉しくて、思わず照れてしまう。
「お前、作ってばかりで全然食べてねえだろ。ほら、口開けろ。」
「え?たくさん食べましたよ。」
「いいから口開けろ。ほら、あーん。」
先生はよほどあーんが好きらしい。
しぶしぶあーんと口をあけると、枝豆のさやを指で押して私の口の中を狙って豆を飛ばしてきた。
「いたっ!いたたっ!先生~…ばんばん鼻にぶつかってるんですけど」
「クソ、外れた。よし、もう一回だ。口開けろ」
「ちょっと先生、私で遊んでるだけでしょう」
枝豆飛ばしに熱中する33歳の弁護士さんなんて、他にいるだろうか。
先生はひどく子供っぽい所があるんだから。
仕方なくまた先生の暇つぶしに付き合っていると、向かいの席からクスクスと笑い声が聞こえた。