弁護士先生と恋する事務員
ウナギと恋煩い
RRRRR……
事務所の電話が鳴る。
「はい、剣淵光太郎法律事務所です。…剣淵ですね、少々お待ちくださいませ。」
受話器から聞こえてきたのは、甘ったるい女の人の声。
電話を保留にし、先生にまわす。
「センセー、“また”お電話ですよ。若い女の人から。」
「…ああ、わかった。」
先生が自分のデスク上にある電話のボタンを押し、受話器を耳に当てる。
「おう、お前か。…ああ、覚えてるぞ。……ははは、そうか。……まあ、そっちに行く機会はしばらくねえと思うけどな、行ったときは必ず寄る。ああ、わかったわかった。」
「…案の定、ミスプリントの名刺配ってきたみたいね。」
柴田さんが小声で私に囁く。
「そうみたいですね。またしばらく電話が続くでしょうね。」
出張から戻ってきてから、若い女の声で電話がかかってくるのはこれで四人目なのだ。
やれやれと二人で顔を見合わせる。
(やっぱり、あっちで楽しく遊んできたんだな。)
そう思うと胸がチクッとしたけれど、実はもっと気になる事が他にあった。
(先生、出張から帰って来てからなんだか元気がないみたい。)
仕事はいつも通りにこなしているのだけれど、合間にふっと見せる沈んだ表情が、いつもの先生らしくない。
時々、どこかを見つめながらぼんやりとしていることもあるのだ。
(どうしたんだろう。体調、崩してるのかな?)
そんな事を気にしながら仕事をしているうちに、昼休みになった。
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だいたいいつも近くのコンビニでお弁当を買って事務所で食べる先生が、昼休みになるとここ何日か外へ出かけている。
(食堂に行ってるのかな…)
その日、お弁当を持って来なかった私は、ふらりと商店街を歩いてみる事にした。