弁護士先生と恋する事務員
(あれ、いないな)
近くの食堂とそば屋を店の外から覗いてみたけれど、先生らしき人の影は見当たらなかった。
(しょうがない、コンビニで何か買って帰るか。)
私はこの辺に一件しかないコンビニへ、昼ごはんを買いに向かった。
暑い日差しに手をかざして歩いていると、途中の路地裏でチラリと何かが動くのが目の端に映って
(あれ、パンダかな?)
気になって私はコンビニの手前で曲がり、路地を進んで行った。
奥には、すべり台と砂場と日よけのための木が一本だけの小さな公園があった。
そこのベンチの前で、シッポを振りながら走り回るパンダの姿を見つけた。
と、同時に―――
(先生!)
木製の古びたベンチには、手に持っているパンをちぎってパンダに食べさせている先生の横顔があった。
こんな所にいたんだ。
一体何してるんだろう―――
そっと近づいて行くと、パンダに話しかける先生の声が聞こえてきた。
「腹減ってんだろ、ブチ。ほら、食え。……お前いつまでもフラフラしてたら、そのうち野犬狩りに捕まるぞ?」
ブチというのはパンダの事らしい。
いつの間に、先生とパンダは仲良くなったんだろう。
野良犬と、古びたベンチと先生。
ブツブツと話しかけるその姿がなんだか哀愁たっぷりに見えて、私はいてもたってもいられなくなった。
「せんせ!」
斜め後ろから近づいて声をかけると、うわぁ、と派手に驚いて振りかえった。
「なんだ、詩織か。」
「詩織です。何してるんですか、こんな所で。」
「あー…昼飯。」
先生の手には、コンビニで売っているサンドイッチのミニパックがあった。
「まさかお昼、これだけですか?しかもたくさんちぎってパンダにあげて…もしかして先生、ほとんど食べてないんじゃないですか?」
「いーんだ、たいして腹減ってねえから。」
先生は気の抜けた返事をして残りのパンもちぎってパンダに食べさせている。
その姿はやはりぼんやりとして、いつもの覇気がまったく感じられない。