弁護士先生と恋する事務員


「なに、いよいよ重い腰を上げて剣淵先生に告白でもすんの。」


安城先生が野次馬根性丸出しで私に聞いてくる。


「こここ告白なんてそんな…。ただもう少しきれいになったら、先生も私の事見てくれるかなあ、なんて思いまして。」

「まあ、今のままじゃダサすぎるもんね。いいんじゃない?きれいになろうとするのは。」


(ダサすぎる…)


さらりと爆弾を投げてくる安城先生の横顔を涙目で睨みつけていると


「あ、剣淵先生」


安城先生の言葉に窓の外を見ると、ちょうどコンビニ前の信号で止まったタクシーの中に、剣淵先生の姿があった。


「あ、先生だ。おーい、先生」


私が手を振るゼスチャーをしていると、剣淵先生は何気なくこちらに顔を向けて私と安城先生を見た。

二人で手を振ったり会釈をすると、剣淵先生は意外にも反応悪く

一瞬苦い表情をして、そのあと軽く手を上げた。


「なんか機嫌悪そうだったな。」


信号が青になり、通り過ぎて行くタクシーを見ながら安城先生が言った。


「うーん…、体調悪いのかもしれないですよ。ちょっと前まで元気なかったし。」

「そうか…。ところで、今先生街に向かったんだよね。」

「え…ああ、そうですよね。」


(夕方、誰かからお誘いの電話がかかってきてたもんね)


「早くきれいにならないと、彼女できちゃうんじゃない?」


意地悪く白い歯をむき出してニッと笑うと


「それじゃ、お疲れ様。」


涼しい顔に戻った安城先生は飲み物を買って帰って行ってしまった。



『彼女、できちゃうんじゃない?』



そうだよね、うかうかしていたら告白する前に撃沈してしまう。



『今まで何やってたんだって、自分に腹たててるだけだ。

なんでもっと早く、俺のもんにしておかなかったのか―――』



人は手の届かない存在になって初めて、大切さに気づく。


そんな風になる前に、一番大切な先生に伝えたいんだ。


『私は、先生の事をずっと想ってます』


って―――

 
< 87 / 162 >

この作品をシェア

pagetop