弁護士先生と恋する事務員
バイバイ、メガネ
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若くして私を産んだ母親は、間もなく父と離婚。
それからはホステスとして働きながら奔放に恋愛を楽しんできた。
しばらくの間、祖母の家で平和に暮らしていた私だけれど
祖母が体調を崩してからは、「新しいお父さん」と母と三人で
狭いアパート暮らしが始まった。
『詩織ちゃん、詩織ちゃんはお母さんに似て美人だねぇ』
「お父さん」なんて思えるはずもなく
単なる母の恋人の、その若い男が、私によく言ったセリフ。
それを聞くと、嫌悪感で寒気がした。
クラブ勤めの母が出勤すると
男と私は狭いアパートで二人きりになってしまう。
女として見られない様に、ダテメガネで顔を隠し
体のラインが出ないダボダボのダサいトレーナーを着こんだ。
さらにドアに鍵を付け、部屋にこもっていたから
テレビを見るどころか、トイレに行く事さえままならない
不自由な夜を強いられていた。
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「はあー…」
チャプン……
湯船に肩まで浸かりながら、私は先生の事を思い出していた。
先生の熱い体
先生の匂い
『詩織……』
耳元で名前を呼ばれ、強く抱きしめられた。
思い出すだけで、胸が
ドキドキ……
(どうしよう、何度も何度も思い出しちゃう)
――同じ大人の男でも、アイツとは全然違う。
男の人に触れられると、嫌悪感しかなかった私が
あの時の事を考えただけで、甘美な刺激に包まれる。
まるで、体の奥に火を点けられたみたい。
種火が常にくすぶって、心をざわめかせる。
(先生……)
きれいになって、私の事を見てほしい。
先生が、好きだった誰かを忘れちゃうぐらい。