白紙撤回(仮
それから俺達はコンビニの袋を下げて市ヶ谷の住むマンションに戻った。

思えば昨日の夜から何も口にしていない。
死体のある隣の部屋で飯を食うなんて気持ちいいもんじゃないが空腹には勝てなかった。
パンとコーヒーを胃に流し込む。

市ヶ谷は俺に構わず背を向けてパソコンを弄りながらパンを口に運んでいた。
俺はチラリと時計を見て無断欠勤が確定したことにため息をついた。

最悪だ……。

テーブルに突っ伏すとパソコンを閉じた市ヶ谷が 静かに立ち上がった。
反射的に俺も顔を上げる。

「……ちょうどいいから山科君に行って来てもらおうかな」

「えっ?行くって何だよ……」

市ヶ谷は俺の質問に答えず死体のある部屋に入って行った。
俺は後を追う気にもなれず市ヶ谷の入ったドアを茫然と見ていた。

しばらくしてドアが開くと、市ヶ谷はギターのハードケースを担いで戻ってきた。
不自然なほど重そうに。

物凄く嫌な予感がする。
ギターケースの中に当たり前にギターが入っている気がしない。
まるでしない。
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