白紙撤回(仮
ギターケースが床に置かれ、ガタンと言う音と共に我に返った。
市ヶ谷と目があって息を飲む。

「山科君、悪いけどこれ、駅前のシティホテルに……」

「いやいや!無理だ!無理!!」

「そ……説明するのも面倒だし、まあいいや」

「えっ!?」

簡単に引き下がった市ヶ谷に呆気に取られていると市ヶ谷は再びギターケースを担いだ。

「じゃあ留守番しててよ。一時間くらいしたら帰ってくるからさ」

「は!?」

キーケースと携帯を手に、ギターケースを担ぎ玄関に向かう市ヶ谷の後ろ姿を俺はただ突っ立って見ていた。

留守番してろだと?
ふざけてんのか!?

玄関のドアの閉まる音が聞こえると脱力して俺はその場にしゃがみ込んだ。

あのギターケースの中身は一体……。
隣の部屋にはまだ死体があるのか?

静かな部屋で一人になると再び不安が頭を過る。
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