白紙撤回(仮
市ヶ谷に騙された。

人形を死体だと勘違いして慌てふためく俺を見て市ヶ谷はさぞや面白かっただろう。
怒りや羞恥やらで俺は市ヶ谷に怒鳴った。

「何だよこの人形!意味わかんね!?」

「ラブドールだよ」

「は!?犬か!」

「うーん……ダッチワイフって言えばわかるかな?」

「キモ!!」

市ヶ谷は小さくため息をつくとベッドに腰掛け人形の髪を指先で掬った。
サラサラと人形の髪が溶けた皮膚に落ちる。

「僕なりにこれはアートなんだけどね」

「てか、ベランダでした異臭は!?」

「顔を潰すために溶かしたからだよ……まだこの状態じゃ中途半端だけど」

「は?何のために?」

「さぁ?依頼人の性癖じゃないの?」

市ヶ谷のその言葉に俺は黙った。
市ヶ谷は使用する側ではなく提供する側なのか……?

俺が黙ったタイミングで市ヶ谷は変化を察し、顔を上げて曖昧な笑みを浮かべた。

「僕の仕事は君の言う『死体』を造る仕事なんだ」

市ヶ谷の皮肉に俺は眉間に皺をよせてただ黙って人形を見た。
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